美容師は華やかで、たくさんの人の気分を上げたりおしゃれに貢献できる仕事ですが、中には退職して別のお店に移ったり、美容師自体を辞めてしまう人もいます。

そこで今回は、美容師が美容室を辞める理由と、退職する際に気をつけたいポイントについて解説します。

美容師なら絶対わかる!美容師が美容室を辞める理由とは?

美容師の仕事は専門学校を卒業してすぐにバリバリ働けるというものではありません。

長い下積み時代を過ごしてやっとデビューできるのに、デビューしたあとも労働条件や将来のことを考えると辛いことがたくさんあります。

そこでここでは、美容室が美容室を辞める理由について紹介します。

下積み期間が長くて耐えられないから

美容師の専門学校を卒業してからすぐに就職できた人の場合、アシスタントとして下積み経験を積んでから、念願のスタイリストとしてデビューします。

この「アシスタントとして下積み経験を積む期間」が、美容師になって最初の壁であり、この期間に耐えられずに辞めていく人も少なくありません。

平均的な下積み期間は2~4年ほどであり、だいたいのアシスタントは5年目くらいからスタイリストに昇進して、自分でお客様を担当してカットしていくことになるのです。

ただ、あくまでもこの数字は平均値ですので、アシスタントでもお店の方針や本人の能力次第では1年目からスタイリストデビューしたり、6年目以降もアシスタントを卒業できずに見切りをつけて辞めていく人もいます。

アシスタントの業務内容が、スタイリストの業務内容に比べて過酷であることも辞める理由の一つでしょう。

専門学校を出てすぐということもあり、最初は受付や会計、備品の手入れや準備、掃除やシャンプーなどの店内業務を任されます。

この中でも特にシャンプーは、薬剤による手荒れがひどく、手が痛くなるほどの症状が出る人もいるのです。

店内業務が一通りこなせるようになったらカラーやパーマの補助としてスタイリストのサポートに入ることができます。

このサポート業務も一通りこなして、アシスタントとしての研修を終えたら、スタイリスト試験を受けてようやくデビューできるのですが、ここまでの間に耐えられなくて辞めていく人がいるのも仕方ないでしょう。

いくら頑張っても報われない!歩合給で昇給・ボーナスもなしで辛いから

美容師が今の美容室を辞める理由として、「給料が低くて生活していけない」というものもあります。

この理由の場合、多くがまだスタイリストデビューしていないアシスタントか、大型店舗で美容師が多数いるお店のスタイリストであることが多いようです。

地方で物価が安く、また実家暮らしをしている人の場合、給料が低くても生活していけるでしょう。

しかし、東京の有名店で修行したいという気持ちで上京してきた一人暮らしのアシスタントの場合、家賃や生活費を支払ったら、あとはほとんどお金が残らないか、毎月赤字になる人が少なくないのです。

アシスタントの給料は店舗にもよりますが、平均的には「月給15万~20万円」程度であることが多く、この給料で東京で暮らすことはほぼ困難です。

加えて自分ではお客様の髪の毛をカットすることができず、やりがいやモチベーションを維持しきれずに辞めていく美容師が多いのも当然でしょう。

しかもアシスタントが営業時間外に行うカット練習などは、「自主的に行なっている業務外のこと」とみなされ、残業代が発生しません。

雇われ店長も、管理監督者に該当するため、法律的には残業が発生しなくても違法ではないのです。

低い基本給に加え、残業代も出ず、さらにスタイリストになるまでは昇給も少なく、ボーナスもないお店が多いため、特に結婚や独立のための貯金を重視する人にとっては、「給料が低いこと」は、美容師を辞める十分な理由になり得ます。

長時間労働が基本のお店では長期間働けないから

美容師の労働時間は、他の業種・職種に比べてもかなりの長時間です。

厚生労働省が「長時間労働の仕事」を調査した結果、次の職業の労働時間が長時間になっている傾向があると示しています。

  • 輸送・機械運転従事者(自動車運転従事者:タクシーやトラック運転手など)
  • 販売従事者(商品訪問・移動販売従事者・不動産営業職業従事者・小売店店主店長:販売職全般や不動産営業職、コンビニ店長など)
  • サービス職業従事者(飲食店主店長・調理人・バーテンダー・理容師・美容師・旅館主など)
  • 専門的・技術的職業従事者(裁判官・検察官・弁護士・医師・編集者・中学校教員・俳優など)
    (参考:厚生労働省「より効率的な働き方の実現に向けて」)

この項目を見てみると、しっかり「美容師」がランクインしており、しかも他の士業などに比べて給料も安いため、より仕事を続けるのが困難であることがわかります。

また、長時間労働がたまにある、ということではなく、常態化していることが問題です。

そもそも労働者の勤務時間は、「1日8時間・週40時間」と法律で定められています。

ここに追加して時間外労働が発生することはあるものの、アシスタント美容師の場合はその多くがサービス残業化しているのではないでしょうか。

店側も「本人が志願して練習時間を取りたいと言っているから」などの言い訳ができてしまい、アシスタント美容師側からすれば、立場的に強く言えないため、泣く泣く基本給でサービス残業を含めた長時間労働になってしまうというケースが多いのです。

無理な長時間労働は、いくら20代の若い世代でも辛いものです。

しかも近年の「自分時間を大切にする」世代にとっては、仕事ばかりの毎日が辛くなり「何のために生きているのかわからない」ことを理由に美容室を辞めて、もっと労働時間が短く時間を区切って働ける1,000円カットなどでアルバイトとして働く人も増えています。

美容師が退職するときに気をつけたいこと3選

美容室を退職する人の中には、ある日突然無断欠勤をして辞める人や、退職前日に申し出たりする人もいますが、実はそれは法的にも美容業界的にもアウトな行為です。

美容室を辞めて、次もまた美容室に転職しようと考えている人にとっては特に「いかに綺麗に退職するか」ということは重要であり、気をつけるべきことがたくさんあります。

そこでここでは、美容師が退職するときに気をつけたほうがいいことを3つ厳選して紹介します。

退職日は就業規則を見て決める!法律的には14日前までに申し出よう

美容室で働いている人の中には、あまりにもアシスタント業務がキツいばかりに、何も言わずに突然辞めてしまう人がいます。

お店側としては代わりのアシスタントを探すために他店舗からヘルプを要請しなければいけなくなったり、新しいアシスタントの採用を急遽行わなくてはならなくなったりと、かなりの迷惑を被ることになります。

実は法的にも、ある日突然退職するのはNGです。

民法627条では、退職の14日前に退職の告知(退職届を提出する)を行えば問題なく退職できることが定められています。

このことから、少なくとも退職した日の14日前には、直属の上司に対して退職届を提出しなければいけません。ただし、お店独自の就業規則がある場合は、14日よりももっと前にお店側に退職の意思を伝える必要があります。

あるお店では、新しくアシスタントを雇用するまでの準備期間が必要だという理由で「退職希望日の1ヶ月前までに申し出る」ことを取り決めています。

このように独自の就業規則がある場合は、就業規則に基づいた日付を意識して、ルールを守って期間内に退職の意思を伝えるようにしましょう。

このルールを無視してしまうと、次に他の美容室に転職しようとした時、元店長に転職希望先を知られてしまった場合、ネガティブな情報を漏らされてしまう可能性があります。

技術が未熟であるとか、勤務態度が悪いとか、転職の妨げになる情報を流されないように気持ちよく退職するためにも、ルールを守って前もって退職の意思をきちんと伝えるようにしましょう。

次のキャリアも考えて退職理由はストレートに言わなくてもいい

美容師が美容室を退職しようとする時、退職の意思を示す機会があります。

一般企業と同じように、美容室でも直属の上司にまずは報告することになるでしょう。

あなたがアシスタントで、特定のスタイリストの専属でついている場合、そのスタイリストにまずは退職の意思を伝えます。

ただし、店舗の規模がそれほど大きくなく、すべての美容師の直属の上司が店長である場合は、店長に対して退職の意思を伝えましょう。

多くの場合、上司からは「君に辞められると困る。どうして辞めたいの?」と、退職理由を尋ねられるでしょう。

この時、もちろん正直に答えるのも一つの手ではありますが、退職した後に次も美容師として違う美容室に転職しようとしている場合は、ポジティブな退職理由に言い換えることをお勧めします。

退職時にネガティブなイメージを残してしまうと、同業として今後も研修などで顔をあわせる可能性もあり、同じ地域で働きにくくなります。

例えば長時間労働が原因で退職する場合は、「今実家の親が体調を崩していて、勤めたままだと看病の時間が取れないので」と言い換えます。

親を理由にしつつも、勤務時間が長いことはやんわり伝えることで、「辞めざるを得ない環境」であることを強調するのです。

お店のせいで辞める、というよりも、環境や自分の都合で辞めるという言い方にした方が、後々にまた元勤務先の人と関係を持つことになったときに有利に働くでしょう。

顧客の引き継ぎはきめ細かにして準備をしっかりしておく

スタイリストの地位で退職する場合、一番大切にしなければならないのが、顧客の引き継ぎです。

お客様情報については店内のカルテにまとめてあるとはいえ、細かな情報までは伝わりません。

好きなカット、嫌いなカット、広がりやすい会話や最後のヘアアレンジの方法など、「カルテに書くまでもないけど、スムースな業務を行うのに必要な情報」を、次の担当になるスタイリストにきちんと引き継ぎましょう。

カルテに書き込んで渡しておくという方法もありますが、今はクラウドで顧客情報を管理している美容室も多いため、クラウドの共有情報に書き足しておくこともオススメです。

またお客様に対しても、次回の来店時には退職していることがわかっている場合は、退職のことについて触れておいても良いでしょう。

お店によっては「顧客ごと引き抜いていってほしくない」ことを理由に、退職のことはお客様に言わないように指示するところもあります。

しかし、このような指示が特にない場合は、「これまで長い間お世話になったのですが、私ごとで退職することになりました。次回からは私よりももっとスキルが高い○○(引き継ぎ後のスタイリスト)が担当させていただきますので、今後とも当店をよろしくお願いいたします」というように、次の担当者に引き合わせておくと良いでしょう。

お店にも、お客様にもしこりを残さないように、綺麗に退職するために、このような引き継ぎをしっかり行ったうえで辞めることをオススメします。

まとめ:給料・長時間労働・人間関係など辛くなったら、前もって退職の意思を伝えて引き継ぎをしっかり終えてから退職しよう

美容師は長時間労働に加え、特にアシスタント時代の下積みが辛く、しかも給料が十分ではないということが辞めるきっかけとなるようです。

いくら好きな仕事でも、体力的にも精神的にも経済的にも苦労が多いと、他の美容室に転職しようとか、他の仕事にキャリアチェンジしようと思う人も多いでしょう。

もしも美容師を辞めるときは、就業規則をよく読んだ上で、指定があれば14日よりもより前もって退職の意思を直属の上司に伝えましょう。

退職の意思を伝えるときは、退職理由をお店のせいにするのではなく、環境や自分の状況に関連づけて説明することで、お互いに気持ちよく次のステージに移行できるはずです。

辞めることが決まったら、引き継ぎをしっかりして、お客様にも美容室にも迷惑をかけないようにすれば、お店が変わっても、同じ美容業界で活躍できるでしょう。